学校のトイレ研究会研究誌27号
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令和6年能登半島地震視察して令和6年1月1日、石川県能登地方でマグニチュード7.6の地震が発生し、死者260人、負傷者らしました。交通網は寸断され、水道・電気などのインフラが停止、多くの人が真冬の寒い中で避難生活を余儀なくされました。1次避難所の避難者数が発災直後の1月2日に4万人を超えたため、過密で劣悪な環境を早期に解消し、体調悪化による災害関連死を未然に防ぐ目的で、1月8日から、1.5次避難所の開設が各地で始まりました。1.5次避難所とは、1次避難所から、ホテルや福祉施設などの2次避難所への入居までの間、被災者の生活環境を確保するために、生活や介護の環境が整った地域で、配慮が必要な方を優先して一時的に受け入れを行う施設です。学校のトイレ研究会では、学校に限らず公共施設における避難所トイレのあり方を考えるため、被災地でありながら他市町の被災者を受け入れられている石川県内の1.5次避難所を3月に訪問しました。訪問したのは、通常は体育施設として運営されている場所。1月上旬に開設し、輪島市で孤立した集落単位でヘリ等により避難されてきた方が生活されています。ピーク時は入所者が150名程となり、大半が高齢者という状況でした。同じ集落の単身者が多く、プライバシーよりもコミュニティが優先され、それが入所者の心のケアにつながることから、居住スペースとなるアリーナには、閉塞感が少なく周囲の気配を程良く感じられる布で仕切られたシェルターがぎっしりと並んでいました。トイレについては、開設と同時に仮設トイレを設置、あわせて簡易トイレや携帯トイレの備蓄も用意されていましたが、水や電気が問題なく使えたことと、常設の洋式便器やバリアフリートイレが元々整備されていたことから、災害用トイレに頼らず常設トイレでほぼ運用が可能だったとのこと。ただ、災害時の利用や多くの高齢者の受け入れを想定して作られたものではなかったため、運営を重ねる中で以下のようなご苦労もあったそうです。1,316人、住家被害る“動線を分けることができず、「せめてバリアフリートイレ●高齢者が多いので、移動に時間がかかる。トイレまで距離が●トイレの入り口に手すりがなく、スリッパの履き替えに苦労●トイレの洋式化改修が済んでいたのでよかった。高齢者は和あると間に合わず失禁につながることがある。居住スペースとトイレは近くにあった方がよい。していた。安全のため、後付けで手すりを設置した。式便器を使えない人が多いので、和式便器だったら大変だったと思う。●感染対策としては自動水栓がよい。一方、高齢者には認識し●冬場だけでなく、感染症が発生した時にお湯が必要。●トイレには暖房が入らないので寒い。 「寒いと夜はトイレに行きたくない、トイレが近くなるから    やすく操作に慣れたものが好まれる。(歯磨きの時に水を出しっぱなしにできるなど)水分を控える」という声がある。また、避難所内で感染症が発生したことで、予期せぬ対応に追われたそうです。感染者を隔離させるため、トイレが複数箇所ある避難所では、施設内をエリア分けして隔離することができましたが、トイレが1か所しかない避難所では、感染者専用のトイレや手洗いを設けることができず、感染者と非感染者で共用せざるを得ない状況が続きました。トイレブースを使い分けるなど運営面での工夫は施したものの、感染対策の基本であが2か所あれば」という悩みが聞かれました。加えて、運営面では、感染エリアのトイレの清掃や消毒作業の正しい知識をもった担い手が足りず、看護師や保健師の作業負担が非常に大きかったというご苦労があり、清掃のマニュアル・ガイドを用意するなど、感染対策や清掃に関する知識を共有・教育しておく必要性を学びました。今回、1.5次避難所を訪問し、インフラや施設設備、運営体制が整った環境で被災者を受け入れることの意義を強く感じました。多くの不安やストレスを抱える被災者にとって、避難先の施設、そして生きていく上で欠かせないトイレの環境が、生活基盤を支えます。高齢者が多く想定される避難所においては、トイレの数の確保とあわせて、配置や距離が重要となること、感染症の発生など有事の際は、トイレが1か所しかないことが運営面で大きなハードルとなることが浮き彫りとなりました。災害対策と感染症対策はセットで考えること、ハードとソフトの両面からの対策と備えが重要であることを再認識しました。ご協力いただきました自治体と避難所の皆様に厚く御礼申し上げるとともに、被災地の一日も早い復旧・復興をお祈り申し上げます。現地の皆さまの貴重なご意見を、今後の学校や公共施設のトイレ改善活動に役立てながら、1人でも多くの方に伝えていきたいと思います。EmergencyReport・金沢市額谷ふれあい体育館(令和6年3月16日視察)・白山市松任総合運動公園(令和6年3月14日視察)  12万5,736棟(2024年6月4日時点)と甚大な被害をもた    2” 1.5次避難所を

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