学校のトイレ研究会が2016年の熊本地震の避難所で実施した調査では、避難生活が長期化したことも影響し、避難所で一番不便だったことが「トイレ」で、最も困ったことは「和式便器が多いこと」でした。洋式トイレに長蛇の行列ができ、トイレ環境の悪化を理由に排泄を我慢したことによる健康障害も多数報告されました。また、今年の元旦に発生した能登半島地震の避難所では、断水が続いたことで安全な水の利用が困難となり、衛生状態が維持できず、避難所でのトイレ問題が深刻化しました。それに輪をかけて、集団生活による感染リスクが増大し、新型コロナウイルスなど感染症の発生が複数報告されました。衛生環境の悪化は生命に関わる問題となるため、洋式化や乾式化、非接触化など、トイレの衛生環境確保は不可欠です。加えて、長期化する集団での避難生活を想定し、感染症が発生した際にトイレや手洗い場の利用動線を分けることができる配置計画など、感染症対策も見据えた防災機能の強化が求められます。※1文部科学省の「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方」では、インクルーシブ教育システムを構築する上で、障害、性別、国籍、経済上の理由などにかかわらず、「共に育つ」ことを基本理念とし、物理的・心理的な障壁を取り除くバリアフリー化を進め、ユニバーサルデザインの考え方を目指すことが必要とされています。 現在、避難所に指定されている全ての公立小中学校施設に対して、エレベーターやスロープの設置とあわせて、校舎と屋内運動場へのバリアフリートイレの整備目標が掲げられています(2025年度末まで)。緊急かつ集中的な整備が求められているものの、 2022年度時点で校舎65・2%、屋内運動場37・3%で、都道府県や市町村別にみると、整備の進捗に差があり、さらなる加速が必要な状況です。学校のトイレ研究会が実施した全国自治体アンケート調査でも、「バリアフリートイレの整備目標がある」と回答した自治体は半数程度に留まり、設置においては「スペースの確保」と「予算の確保」が大きな課題となっていることが明らかになりました。新しい時代の教育環境を整備する上で、支援が必要な児童・生徒への対応と、災害拠点や地域のコミュニティ拠点としての役割を鑑みて、学校トイレのバリアフリー化の早期実現が望まれています。少子化により学齢期の児童生徒が減少する中、特別支援学校や特別支援学級、通級による指導を受ける発達障がいを含む障がいのある児童生徒は年々増加しています。そのような状況の変化を踏まえ、文部科学省の「これからの特別支援教育を支える学校施設の在り方についてによると、連続性のある多様な学びの場の充実・整備を進めるために、「排泄指導にも対応できる広さのバリアフリートイレやシャワールーム、手洗い場等を、特別支援学級や通級による指導のための教室に近接した位置に計画すること」、「バリアフリートイレは利用目的に応じて、各階・各棟に必要数を計画すること」が重要とされています。改修ではスペースの制約が伴うことも考えられますが、場所に応じて可能な範囲での広さや設備を備えたトイレを建物内に分散配置することも1つの考えではないでしょうか。※3避難生活の長期化と感染症対策を見据えた計画急がれる学校施設のバリアフリー化インクルーシブな環境の整備児童・生徒たちの多様なニーズ特 集EV2F 個室トイレスライド式の壁バリアフリートイレ集中型トイレ分散型トイレ(女子)特別教室備蓄倉庫管理シャッターアリーナ特別支援普通教室 」 3出典:学校のトイレ研究会「熊本地震避難所アンケート調査」(2016年7月)さまざまな要配慮者の利用を想定して、広さや設備の異なるトイレを各階に分散して配置。廊下からアプローチしやすい場所に設けられている。(藤沢市立小糸小学校)個室仕様のトイレを配置。センターのスライド式の壁を開放すれば性別に関係なく使用できるトイレにもなる将来の変化に対応した設計。(嘉麻市立稲築東義務教育学校)アリーナと校舎の間にあるシャッター設備は災害時や地域開放時に利用。(豊中市立庄内さくら学園)災害時はシャッターで区画し、校舎棟のトイレを避難所用として開放できる。(金沢市立犀桜小学校)出典:2022年度全国自治体アンケート調査2F配置図トイレ入浴・シャワー食事洗濯寝具冷暖房衣類TV等情報機器携帯電話等32%32%23%22%21%20%9%スペースの確保予算の確保給排水の確保工期の確保工事の騒音学校側の理解工事業者の確保工事の粉塵設備の選定清掃管理18%18%14%9%4%4%3%3%��%��%87%76%
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