学校のトイレ研究会研究誌27号
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1 1 また、性同一性に不安や悩みを抱える児童・生徒への対応として、教職員用トイレやバリアフリートイレの利用を認める運用が進められています。子どもたちの心身の成長過程に応じて、行きやすい場所でまわりを気にせず安心して自由にトイレを選べるよう、男女別トイレとあわせて、バリアフリートイレや男女共用個室トイレを、教室の近くや、教室から離れた場所など、建物内に分散配置する事例も出始めています。さまざまな特性をもつ子ども達が存在する中、多様性と包摂性(D&I)を高めることが重要で、施設もトイレも柔軟な対応が求められます。障がいのある子どもの自立と社会参加を見据え、障がいの有無に限らず、すべての利用者にとって安全・安心で快適な施設環境をつくり、多様なニーズに応えるためには、〇〇専用と決めつけるのではなく、選択肢を用意することが望ましいと言えます。小中学校における学校数および児童・生徒数は減少傾向にあり、適正規模を確保するための統廃合が進んでいます。また、学校は地域コミュニティ形成の核となる多様な役割を担っており、学校と地域はパートナーとして連携・協働し、「共創空間」を生み出していくことが重要とされています。これらの変化を受けて、近年は、地域の活性化・課題解決等の観点から、地域の人づくりや、魅力向上のための基盤となる学校施設を核とした公共施設との複合化、施設・設備の共用化・集約化が進められています。※ 教育施設としては、9年間を見通した系統性・連続性のある教育活動を効果的に実施できる施設環境の構築、そして地域のコミュニティ拠点としては、不特定多数の利用を想定した、より一層の多様な特性やニーズに対応できる計画と機能が求められることでしょう。  学校と地域の連携・協働の先にある「共創空間」においては、児童・生徒の動線と地域住民の動線の整理による明瞭なゾーニング、地域住民が出入りしやすく死角をつくらない空間配置、防犯対策など、設計上の工夫が必要とされています。※トイレにおいても、その動線計画と連動して個数や機能を適切に分散配置しておくことが有効であり、こうした空間づくりは、学校を核とした地域の活性化や、災害に強い地域づくりにもつながることが期待されます。公共施設との複合化や学校の集約化によって、学校トイレを取り巻く利用者の特性やニーズは今後ますます増えるでしょう。現時点では必要なくても、今後、いつ誰がどのような支援を必要になるかわかりません。例えば、広いバリアフリートイレと、ちょっと広めのトイレといった「広さ違い」や、大型ベッド、オストメイト配慮設備、ベビーシートなどを分散配置した「機能違い」、体格差や年齢差に配慮した「高さ違い」など、必要となった時に施設のどこかに使えるトイレがあることが、要配慮者にとっての安心・安全につながります。1か所のトイレでこれらを網羅させることは不可能です。施設全体で考えることが望ましいといえます。学校のトイレも、そういった考え方へシフトしていく時代になってきていると考えます。学校と地域はパートナー 地域のコミュニティ拠点としての共創空間公共施設との複合化・集約化多様化する利用者と向き合い施設全体でトイレ計画を統合化された教育施設と地域のコミュニティ拠点となる行政施設が同じ敷地内に併設。(豊中市立庄内さくら学園・庄内コラボセンター)学年によって異なる高さの手洗いコーナー。(豊中市立庄内さくら学園)引用※1:文部科学省「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方について」https://www.mext.go.jp/content/20220328-mxt_sisetuki-000021509_2.pdf※2:文部科学省「避難所となる学校施設の防災機能に関する事例集」https://www.mext.go.jp/content/20200331-mxt_bousai-000005480_02.pdf※3:文部科学省「これからの特別支援教育を支える学校施設の在り方について」https://www.mext.go.jp/content/20230530-mxt_sisetuki-000021528_2.pdf低学年用中学年用地域のコミュニティ拠点として、さまざまな利用者を想定して施設内に機能を分散されたトイレ。(豊中市立庄内コラボセンター)特別支援教室の近くに2か所設置された性別を問わず利用できる個室のトイレ。(豊中市立庄内さくら学園)           4

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