事例紹介
新築
金沢市立犀桜サイオウ小学校
(石川県金沢市)
「恥ずかしいことじゃない」トイレから発信する多様性
大きさ、場所・・・いろんな形のトイレを用意
「『わぁ、きれい!』子どもたちが新校舎に初めて登校した日、トイレの前ではしゃぐ様子を見て、こちらもうれしくなりました」
そう話すのは、犀桜小学校の前田みどり教頭先生です。
2022年3月、新竪町小学校と菊川町小学校を統合した、犀桜小学校の新校舎が完成しました。二つの学校が合併したのは、金沢市内、特に中心部の児童数が減少していたことが大きな要因です。新竪町小学校に関しては、学級が全体で6クラスにまで縮小してしまっていたといいます。
学校の規模が小さくなると、多様な考え方に触れる機会が減り、人間関係も固定化してしまう恐れがあります。金沢市は、これらの問題を解消するため、統合という決断に至りました。
インクルーシブ教育の一環として、新しい学校では普通教室の他、1階に通級教室、2・3階には特別支援教室が設けられています。さらに、支援を要する子どもたちが、できるだけ自力で近くのトイレを利用できるよう、各階にバリアフリートイレを設置しました。バリアフリートイレには、オストメイトに対応した設備も備えています。
金沢市教育委員会教育総務課(取材時)の杉下裕治さんは「年齢や性別、身体の状況などが制約になったり、トイレを心理的な負担に感じたりしないようにしなければなりません」と言います。
集中型と分散型のトイレで多様性に配慮
犀桜小学校では、ダイバーシティの観点から、年齢や性別、身体の状況などにかかわらず、誰もがアクセスしやすく、安心して過ごせるトイレ空間を目指しています。
トイレの配置についても、男女別トイレとバリアフリートイレを1カ所に集めた集中型の他、男女別トイレを普通教室の端と端に設置した分散型が同じフロアに存在します。学校内でなるべく排せつをしたくないという児童が、せめて好きなトイレを選べるようにという思いから、このような設計になりました。今回、設計を担当した⼤屋設計の杉宮一暢さんは語ります。
「排せつしたくないといった考えも『恥ずかしいものではないよ』と伝えてあげられるような、トイレ計画が⼤切だと考えています」
バリアフリートイレの他、分散型の男女別トイレには、一般的な広さの⼤便器ブースだけでなく、かなりゆったりとスペースを取った個室トイレも用意しています。支援が必要な児童はもちろん、けがをして松葉杖を使うことになった子どもも使えるようにと設置しました。ブース内には、手すりも設けられています。
「いつ、どういった個性を持つ子どもが、何人入学してくるのかわかりません。多様なトイレがあれば、対応もしやすくなります」(杉下さん)
犀桜小学校のトイレは、清掃性や衛生面を考慮して、100%洋式化を実現しました。家庭でも一般的になっていることから、⼤便器はすべて温水洗浄便座つきです。さらに、トイレ内の手洗いには自動水栓を採用。杉宮さんは「今や自動水栓はトイレのスタンダードだ」と言います。
「トイレに苦労するのは、性的マイノリティの児童だけではありません。中には、手洗いのハンドルに触れるのが嫌な子もいます」(杉宮さん)
非接触や感染症対策の観点からも、学校内のすべてのトイレにアルコール消毒液と液体石けんを配置しています。犀桜小学校のトイレには、いろんな性格・性質の児童への配慮が、随所にちりばめられています。
防災に強い学校施設を目指して
犀桜小学校の前には犀川が流れています。大きな水害が発生したときに備え、備蓄倉庫は2階に設置しました。万が一、1階部分が浸水してしまっても、バリアフリートイレは2階、3階にもあるので安心です。なお、学校が避難所となった際には、管理シャッターを下ろせば、教室側と避難所側とで区画を分けることができ、バリアフリートイレは避難所側に含まれるよう設計されています。金沢市は現在、「木の文化都市・金沢」を掲げています。そこで、犀桜小学校でも、校舎の至るところに木のぬくもりが感じられるデザインを施しました。一部は、県産材の木が活用されています。トイレも同様に、壁材などを木目調のテイストで仕上げました。ジェンダーの観点から「男は青、女は赤」とせず、男女別トイレ、バリアフリートイレも、あえて区別のない内装を採用しています。入り口のサインだけは、視認性のために柔らかい色で着色しました。新しいトイレは児童たちにも好評で「汚したり、いたずらをしたりするような子はいない」と、辻和久校長先生は語ります。「『時を守り、場を清め、礼を正す』という言葉を大切にして、教育に当たっています。トイレに関しては、二つ目の『場を清め』が該当すると思うのですが、とても大切に使ってくれていると感じますね」。
金沢市立犀桜小学校 DATA
名 称 | : | 金沢市立犀桜小学校 |
---|---|---|
所在地 | : | 石川県金沢市菊川1-2-15 |
児童数 | : | 338名(2023年5月) |
施 主 | : | 金沢市 |
設計・監理 | : | 大屋設計(建築)、ムラシマ事務所(設備) |
施 工 | : | [建築]みづほ・橘・フレックスJV
[設備]ムラモト・東亜JV(電気) 日栄・テックJV(給排水) サリック(空調) |
竣工年月 | : | 2022年3月 |