事例紹介
新築
嘉麻カマ市立稲築東イナツキヒガシ義務教育学校
(福岡県嘉麻市)
多様な人材を育てるこれからのトイレのあり方
嘉麻市に義務教育学校が誕生
かつて、福岡県嘉麻市は石炭の産地として栄えていました。
しかし、時代とともに石炭が使われなくなっていき、それと比例するように、嘉麻市の人口もどんどん減ってしまったといいます。児童・生徒数が減少する中、学校教育の現場では、学校規模の適正化や、日々進化していく教育活動に対応可能な学校施設の整備という課題が生じていました。
また、嘉麻市では、小・中学校の半数以上が築40年以上経過していました。施設の老朽化対策も喫緊の課題となる中、これからの学校施設のあり方についてさまざまな可能性を検討した結果、小学校と中学校の校舎を一つにした、施設一体型義務教育学校をつくることを決めたのです。
一人の校長のもと、一つの教職員組織で、9年間の教育を実施する稲築東義務教育学校では、学年間の交流が促進されるよう、さまざまな仕掛けが施されています。
校舎全体の設計としては、1階には低学年(1~4年生)、3階には中学年(5~7年生)と高学年(8~9年生)のクラスルームを配置。そして、校舎の中央階に当たる2階には、全学年が利用する図書室と特別教室を配置した「メディアコモンズ」を計画しました。2階に配置することで、日常的に、他学年と顔を合わせられるようにしています。
1階から3階をつなぐ吹き抜けは、校舎の特徴的なデザインです。1階の中心部には発表ステージを設け、上階からも何が開催されているのかを確認することができます。また、発表ステージ付近の壁は一面ホワイトボードになっており、板書や掲示、プロジェクターによる映写などに対応しています。
未来を見据えたトイレ設計
トイレにも、たくさんの工夫を凝らしました。
まず、2階には、天井まで仕切られた個室仕様のトイレ。さらに、トイレを男女に分けるセンター位置には、スライド式の壁を設けました。現在は、男女別トイレとして閉めたままでの運用を予定していますが、将来、その壁を開放することで、性別に関係なく、誰もが使えるトイレにもなります。
設計を担当した久米設計の野原春花さんは「時代が流れたときに、ハード面が置いてけぼりにならないように配慮しました」と話します。
今後、運用方法が変更になることを見据えて、トイレのサインも取り外しが可能です。久米設計の野原啓司さんも「統合前の稲築東中学校は、美術部が盛んであり、将来は、有志の児童・生徒たちで、学校のサインをつくってもらえたらと思います」と語ります。ジェンダーの観点から、トイレ内の色彩も「男は青、女は赤」とせずに、やわらかいグリーンやイエローを床材に採用する程度にとどめました。
特別支援教室は、成長過程に合わせて1階と3階に配置。また、機能性を考慮し、バリアフリートイレとシャワー室を隣接して配置しました。
災害時、避難所になったときに備えて、「メインアリーナ(体育館)」にもバリアフリートイレを設置し、オストメイトに対応した設備などを計画しました。バリアフリートイレの大便器は温水洗浄便座、それ以外のトイレは暖房便座を採用しています。すべての学年が利用する2階に個室トイレを設けること、各階にバリアフリートイレを置くことで、性的マイノリティや、一人になりたい児童・生徒が違和感なく利用できるよう配慮しました。
その他にも、低・中学年が主に利用する1階と3階のトイレの一部は、手洗いコーナーをトイレの外に出しています。これは、手を洗いながら友達と話したり、交流したりできるような、ラウンジ空間を目指したためです。
高学年の教室付近のトイレは、トイレ内で身だしなみを整えられるよう、内側に手洗いを設置しています。感染症対策の観点から、トイレ内の手洗いは自動水栓を導入しました。
子どもたちに最適な教育の場を
稲築東義務教育学校は、建物全体の色を抑え、サインに目が向くようにデザインされているのが特徴です。各学年のエリアの壁には、八角形のピースが集まってできたサインが施されています。ピースには、市産材の杉が用いられています。「ピースに着色をしたのは、統合前の稲築東中学校の生徒たちです。稲築東義務教育学校の開校後は、高学年の生徒が低・中学年の子どもたちに、ピースのつくり方を伝えていってもらえたらと思います」(野原春花さん)「卒業する際は、自分がつくったピースを思い出に持ち帰ってもらい、新たに入学した子どもたちが、自身のピースを製作するという循環ができればと考えています」(野原啓司さん)
八角形にしたのは、円形よりも、児童・生徒がノコギリなどでカットしやすいからだといいます。
また、コンクリートや木などの素材を、意匠としてそのまま活かすことで、建物の構造や成り立ちがわかるようにしています。「授業などで、そういった点についても触れてもらえたらうれしいです」(野原啓司さん)
嘉麻市教育委員会教育総務課の山本匡貴さんは語ります。「教育がよくなれば、嘉麻市に住む人や、働く人も増えると思います。そうなれば、必然的に人口も増加します。学校を起点に、まずは子どもたちにとって最適な環境を整えてあげることができればと考えています」
嘉麻市立稲築東義務教育学校 DATA
名 称 | : | 嘉麻市立稲築東義務教育学校 |
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所在地 | : | 福岡県嘉麻市平1536番地 |
児童数 | : | 470名(2023年5月) |
施 主 | : | 嘉麻市 |
設計・監理 | : | 久米設計九州支社(鴻池・平嶋・久米JV) |
施 工 | : | 鴻池組九州支店・平嶋工務店 (鴻池・平嶋・久米JV) |
竣工年月 | : | 2023年2月 |