事例紹介
新築
茅野市立永明小学校・
茅野市立永明中学校
(長野県茅野市)
児童や生徒たちの想いを
受け止めた新しいトイレ
豊かな自然と歴史的遺産が表現された新校舎
2022年2月に着工し、2024年4月から児童や生徒が学び始めた施設一体型の永明小・中学校。今後はアリーナやメイングラウンド、駐車場などが整備され、2028年には全工事が完了する予定となっています。
「以前は同じ場所に小学校と中学校が別々に建っていましたが、どちらの学校も施設設備の老朽化が著しかったことや、また地区コミュニティセンターや保育園など周辺の公共施設との連携を見据え、環境や安心・安全などに配慮した施設整備指針に基づいて、一体型の校舎整備に至りました。この事例が茅野市をはじめ、諏訪地域では初の施設一体型小中学校となります」と茅野市教育委員会の畠山貴行さんは説明します。
8の字型ですべてが結ばれ、回遊性を持たせている新しい校舎。中央にメディアセンター、その両脇には中庭。北側と南側には平行に2つの普通教室ゾーンが並び、そこに特別教室ゾーンが繋がっています。
学びや交流の拠点となるメディアセンターは、2階に図書館やプレゼンテーションスペース、3階には多目的フロアのえいめいホールなどが配置され、小学生と中学生たちが日常的に交流を持てるスペースになっています。また隣接する永明社会体育館は、児童や生徒が利用する他、地域のスポーツ活動やイベントなどでも活用されることで新校舎は今後、地域との交流拠点の役割も果たしていくことになります。
新しい校舎をさらに特徴づけるのは、1階を「茅野の土」、2階を「茅野の水」、3階を「茅野の森」と茅野市にゆかりのあるモチーフをコンセプトに、普通教室のサインや壁面にデザインされていること。
また特別教室のサインの裏側には茅野市の歴史文化を象徴する縄文時代に使用されていたものが描かれています。八ヶ岳連峰や南アルプスに囲まれ、多くの縄文遺跡が存在し、国宝土偶も発掘されている茅野市。その高原都市の豊かな自然と歴史的遺産がそこに表現され、それはトイレのデザインにも展開されています。
一つとして同じデザインやレイアウトがないトイレ
「廊下も広く明るくなり、児童たちは以前よりもさらに元気いっぱいに、楽しそうに過ごしています」と語る永明小学校の宮下健治校長先生。ある日、児童たちに「新しい校舎で一番好きなところはどこ?」と質問したところ、最も多かった答えが「トイレ」だったそうです。
また小学生にインタビューすると「旧校舎のトイレはニオイが強く、暗かった。新しい校舎のトイレは、タイルアートが楽しく、清潔感があって明るい」と答えてくれました。その言葉の通り、トイレに入ってすぐに目を引くのは壁面のモザイクタイル。そこには「土」「水」「森」という各階のコンセプトをもとに茅野市の自然や文化を感じるデザインが施され、以前より大きな面積を確保した窓が、自然光をたっぷり採り入れ、明るい空間となっています。手洗いは、トイレ内に設けられているほか、出入り口の手前にもセンサー式の自動水栓を設置した広い手洗い空間を確保、さらにバリアフリートイレも随所に設けられ、特別支援学級のすぐそばには専用のトイレも確保されています。
新校舎には一つとして同じデザインやレイアウトのトイレがありません。小学校から中学校へと長い年月を過ごすため、各トイレごとに変化を持たせ、成長を感じながら違いを楽しむことができる空間になっています。
児童や生徒たちの交流の場やほっとする空間に
今回の新校舎建設では、設計段階から地域住民や教職員、児童生徒とワークショップを行い、計画について検討を重ねてきました。そのなかで、トイレにおいて児童や生徒の意見が反映されたのが入り口のサインです。「通常の男女を表すピクトグラムは用いず、小学校のフロアには縄文時代に使用されていた道具、中学校のフロアには周辺の山々をアイコン化したものを採用しています。トイレ内の個室の扉には、淡いトーンのブルーとピンクを用い、男女トイレの視認性に配慮しました。」と設計を担当した東畑建築事務所の久保久志さん。永明中学校の矢﨑知広校長先生は「総合的な学習の時間でジェンダーフリーについて学ぶ機会があり、久保さんにも入っていただきました。そこで男女を区別するデザインに対して生徒たちが疑問を投げかけ、その声を全面的に受け止めていただいた結果、今回のデザインが生まれました」と振り返ります。
このほかにも茅野地域の縄文文化を伝えたいということから、校舎完成前にモザイクタイル体験ワークショップを開催。縄文文化をイメージしたデザインを募り、選定した作品が1階トイレのモザイクタイルに反映されています。
そういったトイレは、児童や生徒たちの交流の場やほっとする空間となっています。永明中学校の女子生徒は「明るく、おしゃれで使いやすくなったトイレだから、友だちとおしゃべりをすることが増えました」と話します。男子生徒は中学生フロアに設けられたトイレ入り口のベンチに触れ、「すぐそばの広い洗面が廊下からの視線を遮ってくれるので、ここに座って友だちとのんびり休み時間を過ごしたりしています」と話してくれました。
一方、掃除については児童や生徒たちも模索中です。その一番の理由は床が乾式化されたこと。これまでのように洗剤を使ってモップやブラシで床の汚れをこすり取り、最後に水で洗い流すことがなくなりました。その代わりに児童や生徒たちは、ビニールの手袋をつけ、薄めた洗剤をしみこませたモップや雑巾で汚れを拭き取るのですが、現状はまだ新しい方法に慣れていないようです。
永明小学校の宮下校長先生・中学校の矢﨑校長先生は、「新しい校舎の新しいトイレだからこそ、どうすればいつまでも美しい状態を残せるか、みんなで考えて使い、そして、掃除に取り組んでいこう」と機会があるごとに伝えています。そこには、ワークショップなどで児童や生徒たちも新しい学校づくりに参加してきたからこそ、トイレの清掃についても自分たちで主体的に考えることを大切にしていきたいという願いが注がれています。